2025年、佐々木尽が、WBO世界ウェルター級タイトルマッチに挑む。
この挑戦は、日本ボクシング史における“新しい地平”への一歩だ。
ウェルター級という日本人にとって高い壁に、堂々と拳を掲げて立ち向かう姿は、それだけで十分に記憶に残る。

佐々木は、すでにボクシングファンのあいだではその名を知られた実力者だ。
だが、まだ“全国区”とは言えない──そこが、どこか1983年の赤井英和と重なって見えてくる。

当時の赤井も、関西ではすでに人気と注目を集めていた。
だが、全国的な認知という意味では、まだ“これから”という位置づけだった。
そのなかで迎えた七夕の夜──ブルース・カリーとの世界戦。
結果は7ラウンドKO負けだったが、赤井の戦いぶりは、試合の枠を超えて多くの心を震わせた。
男が惚れる男の散り際。あの清々しい敗北は、いまでも語り継がれている。

赤井は敗れた。だが、それは誰の胸にも深く焼き付く“美しい敗北”だった。
そして、彼の背中が語ったものは、技術ではなく魂だった。

40年以上の時を経て、佐々木尽が挑むこの試合にも、何かが重なって見える。
もちろん彼には、赤井とは違う結末──勝利を、ぜひ掴み取ってほしい。
赤井が果たせなかった夢の続きを、佐々木が背負ってリングに立つわけではない。
だが、そうであっても、あの時代の“誠実な男”の系譜が、令和の時代に再び輝くことに、心が動くのだ。

当時、赤井の試合の裏では新たなタレントが誕生し、時代の空気が切り替わる瞬間だった。
今回の佐々木の挑戦も、同じように──別の角度から“新しい時代の到来”を告げる節目になる気がしてならない。

今回の挑戦は、ボクシング界にとっても、日本スポーツ界にとっても、ひとつの節目になるだろう。
そして、また誰かがこの試合をきっかけに、ボクシングという競技と、そこに生きる男の美しさに出会うのかもしれない。

本物だけが記憶に残り、語り継がれる。
佐々木尽の拳が、そんな“記憶の継承”のバトンを受け取る時が、いよいよやってくる。

赤井英和さんの時代と佐々木尽選手の今って、まったく違うはずなのに……なぜか似た空気を感じるんです。
言葉にしづらいんですけど、どちらも“純粋な男”を持ってる気がして。

ジョー白井

そうだな。赤井と佐々木は、キャラはまったく違うけど、重なる部分がある。
どちらも、飾らない。口だけじゃなく、言葉と行動がちゃんと伴ってる。
だから、男に憧れられるんだよ。誠実な拳ってのは、理屈抜きで伝わってくるもんだ。

赤井さんの“美しい敗北”って、ただの感動じゃないんですよね。
その場にいた人たちの“心の芯”を揺さぶった試合だった。
私はあの試合、今見返しても涙が出ます。
負けたけど、ものすごく清々しくて……。
だからこそ、佐々木尽選手には、あの先を見せてほしいんです。
赤井さんがあの夜に見せてくれたものを、勝利という形で超えていってほしい。

……ジョーさん。
佐々木尽選手、勝つと思いますか?

ジョー白井

どうだろうな……。
ボクシングってのは、相手の力量や状況だけじゃなくて、“その夜の空気”にすら左右される競技だ。 でもな、佐々木には“流れ”がある。
それがどこまで力を貸してくれるか……俺にもわからない。

わからないって言われても……
私は、絶対に勝ってほしいんです。
赤井さんの“美しい敗北”が記憶に残るものだったからこそ、
佐々木選手には、“記憶に残る勝利”を手にしてほしい。
“純粋な強さ”が、ちゃんと報われるってことを──証明してほしいんです。

ジョー白井

……いいな。
そういう言葉がある限り、ボクシングはまだ希望を語れる競技でいられる。
勝ってほしい、じゃなくて──勝つべきだよ、佐々木尽は。

赤井さんは、負けてなおスターになった。
誰もが心を奪われた。あの夜を境に、時代そのものが動いたような感覚がありました。
でも佐々木選手は、勝ってスターになる人だと思うんです。
勝つことで、“時代の象徴”になれる男。

ジョー白井

うん、確かに。
赤井のスター性は、敗北の中に燃える魂があった。
でも佐々木の勝利には、覚悟と時代の希望が込められてる。
この男が手にする勝利は、単なるベルトじゃない。未来そのものだ。

そしてその勝利には、
赤井さんから託された“何か”が宿ってる気がするんです。
あの夜に燃えた火が、40年かけて佐々木選手に届いたような……そんな感覚があって。

ジョー白井

火を絶やさず、次の拳に託す──
ボクシングってのは、そういう静かな継承の物語でもある。
佐々木尽は、そのバトンを、ちゃんと握ってリングに上がる男だよ。

“記録”だけじゃなく、“記憶”にも残る試合。
でも今回は、記録も記憶も、両方とも彼のものにしてほしい。
それが、私がこの試合に懸けるすべてです。

ジョー白井

……そう願うファンの想いも、拳の一部になるんだ。
佐々木尽は、もうひとりで闘ってるわけじゃない。
過去の記憶と、今を生きる祈りと、未来を変えたいっていう執念──
全部背負って、リングに立つ。
そんな男の試合は、絶対に“何か”を残すさ。